GRIM PEAPER 第2話


 栗色の長い髪。ぱっちり開いた大きな瞳。
 古都の友人――坂上香織は、テレビでもなかなかお目にかかれないような、極上の美少女であった。
 香織は、弱々しい声で――しかし、はっきりと言った。
「私は、もうすぐ死ぬんです。」



 占い用の姿――ベールを被った夕は、その言葉に、ぴくりと眉を寄せた。
 ゲームの中で、現実世界のことまでも、言いあてる占い――それで、彼女は、「死」を予言され、絶望の中にある。
 夕は、ゲームの中の占いが、現実世界で100パーセントの的中率を持つなどとは、信じていない。
 けれど、いくつもの的中した占いを目の当たりにしてきた香織にとっては、怖れを抱かずにはいられないだろう。
 その瞳には、絶望の影があり、表情にも、生気がない。
 なまじ、美しい少女であるだけに、美しいだけの人形を見ているような気分にさせる。
 占いなど、まるで信じていない古都は、香織の不安を杞憂だと笑いとばしたが、日に日にやつれていく香織に、さすがに危機感を覚え、夕に助けを求めにきた――否、強要してきたのである。
 古都自身は、夕の占いすら信じていないが、夕の占い師としての評判は聞き知っている筈だ。
 ゲームの中の不吉な占いの結果に怯える香織に、現実世界の占い師である夕と引き合わせ、その占いを覆させようと思ったに違いない。
(いくら、ゲームの中とはいえ・・・随分ヒドイ占い師がいたものだね。)
 対応策も与えずに、ただ、「死」を告げるなどと。
 占いは、人に不幸を告げるものであってはいけないと、夕は、思う。
 例え未来に、不幸の影があろうとも、それを振り払うための助力をするのが、占い師の仕事だ――夕は、そう考えているのだ。
 人生の助け舟――人に、希望を与えるべきである占いが、香織をやつれさせていることに、夕は、不快を感じる。
(許せないな。)
 ゲームの中の――架空の占い師に怒ったところで、仕方がないのかもしれないが。
(何とかしないとね。)
 決意と共に、夕は、手の中のカードに意識を凝らした。
 ゆっくりと、手の中のカードを掻き混ぜる。
 そして、目を閉ざし、心の中に、広がる宇宙を創り出す。
 カードと、星は、密接に関わっている。その二つを、心の中で、まず、夕は、リンクさせるのだ。
 再び目を開いた時、夕の雰囲気は一転した。
 神秘的で、性を感じさせず、まるで、人ではないような、不思議な気配。
 全てを見透かすような、強く、そして、澄みきったガラス玉のような、感情を宿さぬ瞳。
 その変化に、香織は、ごくりと唾を飲み込んだ。
「占うことは、貴方の近い未来・・・よろしいですね?」
 占い師として、夕は、問う。
 言葉遣いだけでなく、声そのものまでも、別人のようだ。
 夕は、意識していないが、占いに入ると、自然と切り替わるのだ。
「・・・はい。」
 震える声で、香織は、頷いた。
「では、カードに、手を乗せてください。」
 そう言って、夕は、一まとめにしたカードを、香織の前に置いた。
 言われるがままに、カードに手を重ねた香織に、夕は、言う。
「目を閉じて。気持ちを静かに。」
 香織は、言われたとおり目を閉ざした。
 緊張が、身を覆う。
(もし、また、・・・死を告げられたら?)
 怖かった。たまらなく、怖かった。
(でも・・・)
 自分を思って、ここへ連れてきてくれた、古都の気持ちを無駄にしたくはなかった。
 香織は、怯える心を、なんとか脇に追いやり、心を静めようと試みる。
 部屋に充満した、香の効果もあって、ほどなく、それは功をそうした。
 夕は、カードを、三つの山にカットし、また、ひとつの山にまとめる。
 カードを裏にしたまま、七枚ごとに一枚、カードを並べていく。
 カードを並べ終えた夕の視線が、香織を貫いた。
 厳かに、夕は告げる。
「では、展開と、絵解きをはじめます。」


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